長く携わってきたことを終わらせることはどんなに大変なことか。集大成として臨み、満足に終わらせることができる人は本当に一握りだ。

昨年末、ソチオリンピック選考会である全日本フィギュアスケート選手権を観戦した。長い間見てきた選手が競技生活を終える姿を目にするのは、悲しくもあり、誇らしくもあり、でもやっぱり寂しい。けれど、わたしたちは彼らの苦労の切れ端しか知らないのだから、安易に「もっと続けて欲しい」なんて言えない。

安藤美姫を初めて目にしたのは、今からちょうど10年前の長野。その圧倒的な”華”にひどく驚いたことを覚えている。しなやかな身体から繰り出される鋭いジャンプ。プログラム「火の鳥」のごとく、長い腕を翼のようにはためかせるスピン。そして滑り終わった後の幼い笑顔。あまりに鮮烈だった。
長いキャリアの中で、彼女は2度世界女王に輝く。2度目の世界選手権優勝を果たした際には、「技術的にやり残したことはもう無い」とまで話していた。そこから2年の休養を経て、復帰を決意する。「フェードアウトするのではなく、現役として引退したい」それが彼女の終わらせ方だった。

高橋大輔はこの大会で、思うような演技ができなかった。後々よく代表選考基準を見直せば、表彰台に乗れなくても彼が選ばれる確率は高かったのだけれど、現地では「夢がここで絶えた」という雰囲気が会場全体を包んでいて、「ああ、これで終わってしまうのか」と本当に思った。
結局はバンクーバーオリンピックに出場した3人が3枠目を争う展開になったわけだ。織田信成は自身のフリースケーティング滑走後、次に滑る高橋大輔に「大ちゃんがんばれー!」と大声で叫んだ。3位に入りながら代表権を逃した小塚崇彦は、声を震わせながらインタビューに答えていた。高橋くんはそんな思いを乗せて、ソチへ向かうのだと思う。彼にならきっとその器量がある。

フィギュアスケートは特殊な競技だ。60m×30mの広いリンクを 何万人もの観客が360度囲み、たった一人を見つめている。その孤独感やプレッシャーは想像を絶する。トリノオリンピックに金メダル候補No.1として臨んだイリーナ・スルツカヤは、「この氷が全て溶けてしまえばいいのにと思った」と後に語っていた。

ソチオリンピック開幕まで2週間を切った。それぞれが満足いく演技ができるように心から祈っているし、何度も夢を見せてくれた彼らの集大成を、わたしもしっかり見届けたいと思う。